対談記事

誉田喜博 × 植田真光
2018.06.01
人を信じる。神を信じる。自分を信じる。
信じる、信じないは自由だが、
信じないことには、前に進むことはできない。
疑った瞬間から恐怖心が生まれ、目の前の事から目をそらし、
進むことや、考えることを止める。
大阪府咲洲庁舎ビルの再生の一環としての同ビル内のホテル事業や、
被災地への支援など、地域活性化に寄与されている、
誉田喜博氏と大きな意味での信心について話をしました。
感謝から始める
植田 誉田さんは長く不動産取引の世界にいらして、今は独自の技術を使って既成のビルをリノベーションし、ホテル経営をされていますね。今まで、仕事上、沢山の苦い経験もされてきたと思うのですが、何を信じて仕事をされていますか? お金だけしか信じないという人もいますが(笑)
誉田 何を信じてやってきたということですか?
植田 商売ですから当然利益を上げることが目的になるのですが、利益は出るけれどそのやり方はしない、誰になにを言われようがそこは譲れないということとかですね。
誉田 まぁ、私の仕事の世界は海千山千の人が多く、色々な絵を描いてくる人がいまして、世間の普通の常識どおりにはいかないところはあります。身内も含めて騙されたり、裏切られたりしたこともあります。さんざんな目にもあっていて、仕事上、一瞬でも気を抜く事はできないんですが、でも、人の可能性を信じ、自分を信じる。その信念でやっていくということでしょうかね。
人としての理想を言いますと、素晴らしくバランスが整っていて、その上で長所も飛び抜けていて、心がきれいで性格が良いというようなことになるんでしょうけど、そんな人なかなかいるもんじゃないですよね、というかほぼいないですよね。
植田 強くて優しいというのが理想ですが、強いと傲慢なところがあったり、優しいけど弱いとか色々ありますね。
誉田 弱いけど傲慢というのもたまにありますが(笑)
植田(笑)
誉田 私はどうしようもないような人でも何か一つ長所があるとそこと付き合うんですよ。それで、その長所を伸ばしてあげることをしていきながら人間として成長していってもらいたいと思っています。
短所は関わっている周りの人達で補っていけばいいんですよ。長所を伸ばし続ければ、それは10の短所よりも強くなります。だから私が仕事で集めている人間は、持っている長所はもの凄く長けています。
仕事についても、一人だけで取り組むことはせず、すべてチームでやります。
皆で取り組んでそれぞれを補いながら達成するんですよ。そうすると、ひとつ、ひとつ、仕事が終わるたびに皆がちょっとずつ成長してますね。私も含めてですけど。
植田 いま誉田さんがおっしゃっている、短所があっても、そこはみんなで補いながら良い所を伸ばそうよ、というのは人生のどの時期から思うようになられましたか?
通常、騙されたり、裏切られたりという経験があると、人を信じなくなり、人に期待もしなくなり、
「結局、人ってそういうもんなんだな、あいつはあんなもんなんだな」
と、思ってたりして、人に対して距離を置いたり、信用しなくなっていったりするじゃないですか。
誉田 はい。
植田 だいたいはその辺りに辿り着きますよね。
だけど「難点はあるけど、こいつにはこういう良い所があるじゃないか」っていうところで、騙すかもしれないけど、裏切るかもしれないけど「俺はこいつのここが好きで、この良いところを伸ばしてやったら何かあるかもしれない、難点は許そう」とおもえるようになった時期ですね。
誉田 騙されるかもしれない、足を引っ張られるかもしれない、損をするかもしれないという疑いよりも、どれだけいいものを持っているか、何を見せてくれるのかという可能性を求めるほうが面白いんです。
歳を重ねて、経験を積んでくると「相手にも事情があるんだろう」と思えるようになってきますし、いつまでも自分の中に怒りとか、許せないとかの感情を持っていると、そこから出られなくなってなかなか前に進めないことが多いですよね。
私はね、皆で明るい方に歩いて行きたいんですよ。よく、暗い話ばっかりする人がいますよね。苦手ですね。明るい話ばっかりの人のほうがいいです。能天気なことではないですよ。プラスだけでいくことはまずないですからね。大変なことを抱えていても前を向いて行くということですね。
私が人を許し、人の良い所を見つけ、そこを見て、そこを面白がり、人と付き合えるようになったのは、大きな挫折を経験してからですかね。
ボロボロになってすべてを投げ出そうと思っていた時の家族の私に対する想い。見捨てずに助けてくれた仲間たち。心に浸みましたね。「ありがたいな。人のために、自分のためにがんばろう。もう、このどん底の気持ちには戻って来ないぞ」と思いましたね。そこら辺りからだと思います。「どれだけいいものを持っているか」になっていったのは。
大丈夫かなこの人、と思ったらできるだけ裏切られないような環境の中に持って行って仕事をしてもらうようにしていますね。
植田 あいつはこういう環境でいると裏切ることもあるけど、こっちの環境では裏切らないだろうというところですね。
誉田 そうです。自分が信用している仲間たちの中に入ってもらってやってもらいます。私達の仕事仲間は一枚岩なんです。それぞれの個性はあっても向いている方向は一つなんです。その中にいると自然と心はは繋がっていきます。
植田 誉田さんは過去に人に裏切られたり騙されたりといった経験をされていますけど、その経験で学んだことからでしょうか、人の言動とか人の機微とかをよく見ておられますよね。で、通常はポーンと見放す場面でも見放さないですよね。誉田さんは情に重きを置かれる方なのでその分裏切られたりしたときの反動は大きいと思うんですよ。なのに、自分や、人を信じる心は変わらずに持っておられる。自分が何かを得た時、仕事の上での成功でもそれ以外でも、自分が成し遂げたという事と同時に感謝の気持ちも忘れない。
これは何かというと「俺の努力だ、俺の実力だ」とか「俺が頑張ったらできるんだ」というだけの解釈しかできない人は事あるごとにどんどん人を切って行くので、先細りをして最後は鉛筆の先みたいなところに立っているような状態になるんですね。でも、神の御加護なり、人の縁なりをありがたいと感じるような人はもっと大きくなっていくんですね。大きくなればなるほど自分の中で「まだまだ俺はこれではだめだな、もっとこうしなきゃいかんな」という理解がだんだんと深まっていくんですね。これは凄く大事なことだと思うんですね。
裏切られたり騙されたりして苦しくなったときに、石ころを蹴るように撥ねつける気持ちも経験としては必要なことだと思うんです。若き頃にね。でも、人間や人生はそんなことだけではないっていう事を知っているからこそ感謝の気持ちが生まれるんだと思います。
誉田 何事もプラス、マイナス両面ありますからね。
植田 でも、やっていかなければいけないので、問題のある行いがあった人でも、普通の世間から見たらとんでもない事で、とんでもない人かもしれないけど、俺の中では許せる。「まぁ、これぐらいやったらええか、しゃぁないか」「それよりもあのひとはこんな能力があるじゃないか。そこを伸ばすことはできないのか」「一人でほっておいたら、あの能力を使ってくれるところもないだろうし、自分の所に来たら活かすこともできるんや」と、世の中で使い物にならない部分は呑み込んでやっていくことをされてる。また、スタッフの人達もそれを理解されていると思いますね。
誉田 人はけっして一人では世の中を生きていけないです。利用されたり、裏切られたりしても人と関わって生きて行きますので、一人、一人をよく見極めて、良い縁を持てる可能性があるのならば付き合います。あとは気に入らないところも個性として見ていますね。目の前の出会いや挑戦に対し向き合う事を選びますね。皆が同じ方向を向いていれば全体はぶれません。一人が仕事で失敗した時、彼だけで背負うんじゃなくて、それは皆の経験として勉強させてもらいます。反省もしますが、反省より学習のほうが大事です。一人の失敗から皆で学習するんですよ。
私達は失敗したらすぐに方向転換します。「次、行こう!」と。やり直しはチャンスにもなります。「雨が降ったから、虹が出た」みたいにね。例えば、不動産の取引で、社長の私の判断で「これはいける」と多額の手付金を入れた物件でも皆で検討した結果「やっぱり違うな」となると、流す事もあります。一人の視野だけでは何かにこだわってしまって、全体を見られない事がありますからね。
植田 人を信じられない人っていうのを誉田さんはどう見ておられますか?
誉田 人を信じられない人?
第一歩目が不足でものを言う人か、感謝から始まる人の違いではないですかね。
不満だけを口にしたって何も始まらないですよね。私達の仲間でも最初は不足から入る人もいます。でも、やっていくうちにいずれ解ってくれるだろうと思ってやっています。最初は理解できなくても、いずれ理解してくれるだろうと。
それがその人の修行であり、生き方につながるんだと信じています。
ひとつ、ひとつ、乗り越えていく。
植田 そうですね。必ず解らなければいけない時期がやってきますね。不足とか、恨みつらみだけを口にしているだけでは何も始まらないということに気付き、「これじゃぁ、駄目だな」と思ったときに「もう、つまらん、そんなことを思ったり、言ったりするのは止めよう」ってなりますね。で、その次にこの状況はありがたいと感じてきます。自分が救われているという、救われる環境にいることに気付くんですよ。
「本当にありがたいなぁ」と、心の底から思えたときに、物事の見方や行動が変わってくるでしょうね。
不足していることへの要求ばかりするんじゃなく、自分が何かをしてみたいと思うようになっていきますね。
そうすると、自分の事も、周りのこともクリアに見えてくるようになるでしょうね。
誉田 本当にそう思います。
植田 人に期待をして、その人の光を引き出そうとするのが、誉田喜博という人だと思うのですが、人の出会いについてはどう思われますか?
誉田 私は、人は出会うべきして、出会うものなのかなぁと思いますね。ふりかえってみると、求めている人とは一発で出会えなくても、最終的には出会えることが多いんです。縁があったというか、なんか、そういう風になっているように思いますね。
植田 「出会うべくして」でしょうけど、それは、出会えるまで探し続けたからでしょうね。
何かを組み立てていくときに、途中下車でよしとする人もいます。だけど、そういうわけにはいかんやろと乗り続けたり、あるいは乗り換えたりして探し続ける人がいます。私も仏教の勉強を始めたとき、色々な人達とお会いしました。その経験から学んだことをもとに、一歩ずつ、進んできました。人の出会いもそういうことを経て行かないとやって来ないんだと思いますね。出会うための条件みたいなものですね。
誉田 住職との縁も、それぞれが経てきた時間のなかでの経験をもとに出会ったのかもしれないですね。
植田 誉田さんは仕事での出会いについてはどうですか?
仕事そのもの、それに関わる人、両方ですが。
誉田 そうですね、仕事の質や、大、小、によっても変わってきますけど、基本的に出会いがあればそこに飛び込んでいきますね。こちらのキャパではちょっと手の負えないかなと思うようなプロジェクトでも、始めてみるとサポートしてくれる人が出て来たりすることもありますからね。
植田 今、難しい仕事を進めておられますね。
誉田 そうなんです。ちょっと、大きなプロジェクトで、場所を再生するような仕事になるんですが、これは私達が仕事を進めて行く過程でのクリアしなければいけない大きなひとつの山だと考えています。この山を乗り越えて次に見えてくるものは、今までは見えていなかった、または、見ることのできなかった景色が見えてくるでしょうね。
今の私達にとっては大変なプロジェクトなんですが、どんな景色が見られるのか、ワクワクしている自分がいますね。
植田 私はね、今回のこの難しい仕事は誉田さんに絶対に乗り越えてほしいんですよ。
誉田さんは色々な経験をもとに仕事をされてきて、その成功した仕事の結果で「こんなもんでいいか」というふうに満足されて、ひとつの仕上げをしてしまうところがあるんですよ。
誉田さんはね、そこに留まるんじゃなくて、その過程と結果を経験して、それを土台にして、次の場所に行かなければいけないんですよ。そこに行ってこそ輝くんですよ。そこから、誉田さんの本当の仕事が始まるんですよ。いま、燻っている光がそこで開花しますよ。それは、その場所に立たないと光らないです。そこには、また、質の違う縁も待っていますよ。
誉田 それは、私も感じています。
植田 誉田さんが仕事で関わる人達に共通するところっていうのは、なにかありますか?
誉田 私達の仕事仲間で共通するところは、皆、仕事がものすごく好きなことですね。お金を追いかけるのではなく、仕事そのものが好きですね。家庭を顧みないぐらい仕事をしますね。放っておいたら何時までも会社にいますよ。
だから私は皆に家庭を大事にしろと常に言っています。やっぱり、家庭があって、自分があるというのは人として幸せなことですから。
植田 バランスですね。ただ、仕事は時間をビシッと区切ってできるものでもないですからね。難しいところですね。乗ってきた所で中断すると、次に再開するときに同じ集中力に持ってくるまでに時間がかかったりしますからね。
誉田 そうなんですよね。だから、なかなか帰らないんですよ。
植田 仕事でもなんでも取り組んでいくっていうことは大事なことですね。仕事はこなすのではなく、作りあげていくものですからね。
誉田 そうです。皆、ひとつ仕事が終わると、その経験をもとに次の仕事を作っていきますね。
植田 やろうとする物事を常に見つめているから、考えが出てくる。考えが出てくると実行する。実行したら、また、考えが出てくる。終わらないですよね。(笑)
誉田 (笑)ほんとにね。
植田 誉田さんにとって仕事ってなんでしょう?
誉田 ひとつは達成感ですかね。
子供の頃、遊びでも、勉強でも何かを達成したとき、嬉しかったじゃないですか。あの喜びの大人バージョンですよ。達成感が欲しいんですよ。ひとつ、ひとつ、乗り越えていきたい。そして、達成感を味わいたい。これが大きいですね。
私の周りには、よく遊んだり、よく勉強をしていた子供が、そのまま、大人になったような人達が多いですね。
よく遊んだ人は、よく仕事をしますね。子供の頃に遊びのなかで見つける楽しさとチャンネルとしては同じなんじゃないでしょうか。なんか、そんな感じがしますね。
植田 やっていることが面白いんでしょうね。
誉田 それと、もうひとつは「仕事」は生きている間の「行」だと思っています。職種は関係ないです。与えられた環境のなかで、ひとつ、ひとつ、乗り越えていくのは行だと思います。
何かが駄目だったときは、何が駄目だったのかということを見つめるために駄目という答えがあると思いますね。
植田 壁にぶち当たったときなどはどうしますか?
誉田 そのことについて考えますね。とことん考えます。たぶん、寝ているときも考えていると思います。
壁に当たったとき、目の前は壁なのでその先は見えないんですよ。壁しか見えない。そんなとき、引けるところまで引いて見るようにします。何処までも戻る。ちょっとでも先が見えるところまで戻る。そこからもう一度考えます。そうすると、全体や、進むべき方向が見えてきますね。
植田 また、初心に戻ってやればいいやないか、ということですね。
誉田 そうですね。壁の間近でもがいても見つからないときは、必ず、一回戻ります。
植田 自分がやってきたという、こだわり、とらわれ、が壁を作っているだけであって、そこから外れて客観的に見れば「なんや、そんなことかやったんか」ということは多いじゃないですか。
変に慄いたりしますけどね。心は的から外さないということですね。
誉田 ボコボコに打たれていてもファイティングポーズは崩さないですよ。
植田 それは組織全体でそうなるんですかね。
誉田 そうですね。自分がノックアウト寸前までいって、「あ~ これ、答えがないんじゃないかな」と思っても、フッと周りを見たら他のやつがまだ考えながらファイティングポーズをとっているんですよ。
こいつらがファイティングポーズをとっているんだったら、自分が白旗を上げるわけにはいかないな、となるんです。
植田 それが組織の強みですね。
誉田 私が答えを出したら、周りは何も言わないんですよ。だから私は答えを出さないんですよ。そうすると周りから色々な意見が出てきます。で、そのなかから構築していきます。
仕事を進めるときは三パターンぐらいのプランを出します。それを同時に進行しながら、一つのプランが上手くいかなかったらすぐに切り替えて二つ目に乗り換えます。それも駄目だったら三つ目に行きます。その戦略は常に自分が立ています。常に三つぐらいのレールは引いていますね。
植田 向いている方向が一緒だということ、これだけで十分なんですね。それぞれの立ち位置は違うので、それぞれがそれぞれの考えを言うけど、でも、どの立ち位置が問題を解決するかを模索するだけなんですからね。
誉田 同じ志を持って、それぞれが自由に発想して、皆で作りあげていく。チームでやる仕事の「協調」の要素と「競争」の要素の両方を生かしていける環境を作り、人が持つ資質を信じて、仕事をしたいですね。(終)
人は、それぞれに信じるものがあっていい。
信じる力があるなら、信じる道を進むことができる。
真っ直ぐに努力し、智慧をもらい、本質を知る。
本質を知れば、本物に出会える。
他者を認め、他者を許し、自分も許せれば、
こころは、大きく広がっていくでしょう。
誉田喜博氏
泉佐野センタービルを取得し、地域活性化の為のビル再生に着手。ビルの70%をインバウンド専用ホテル(泉佐野センターホテル)とする改装事業を実施。旅行者を泉佐野駅前に誘致することに成功し、駅前地域の活性化に寄与できる事業となる。ホテルの稼働率は90%を保持し、ビル再生事業として成功を収める。2017年、大阪府咲洲庁舎ビル再生の一環としてコスモタワー内、全387室のホテル事業に着手。
(株) リコジャパン 最高顧問
(株) さきしまコスモタワーホテル開発 代表取締役社長